■ 傘忘れ、雨宿り


掃除が終わる頃、空は一際大きな光を発した。
げ、と俺は箒を止め、空を睨む。その色はすぐにも雨が降りそうだった。
携帯を開きメールを送る。これで洗濯物は安全だ。



傘を持ってきていなかった。
自分の不運を呪いながら昇降口から眺めた外は土砂降りで、天気予報が晴れだった為だろう、殆どの生徒がカバンを抱え走って行った。俺はそれに背を向ける。
唐突に行きたい場所が出来た。

「桜井?」
「あ」
誰もいないだろうと思いながら、訪れた美術室には桜井がいた。
「どうしたの?」
「何か…書きたくなってな」
「そっか」
そういって、再び桜井は絵に向かう。
雨の音を聞きながら、俺はイーゼルを奥から運び出し、モチーフの前に立てる。
絵の具を付けて絵に向かえば、程なく雑音は消えていった。